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【手話マップ・レポート vol.19】 《聞こえない方でも参加できるハンドメイドリモートワークショップ》水戸芸術館 BOB ho-ho「郵便式/POST CARD」参加体験レポート

水戸芸術館/ 茨城県

レポート詳細 投稿日:2021年01月21日

2回目の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発令されましたが、みなさまにはお変わりありませんでしょうか?
そのコロナ禍のあおりで、自宅にいながら「ミュージアム」を楽しめる仕掛けの1つとして「おうちでできる創作ワークショップ」を企画する美術館が増えてきています。 水戸芸術館の現代美術センターが企画する「おうち・こらぼ・らぼ」もおうちでできる創作ワークショップです。同館とご縁のあるアーティストたちの協力で制作されたオリジナルのワークショップキットが同館のショップで販売されていますし、オンラインショップで購入も可能です。

<今回のワークショップについて>
今回、筆者が参加したのは、BOB ho-ho(ボブホーホー)さんによるワークショップキット「郵便式/POST CARD」です。 BOB ho-hoは、ウエダトモミ(グラフィックデザイナー)とホシノマサハル(版画摺師)の2人で、浜松を拠点に色んな素材や技法を駆使してシルクスクリーンワークショップを仕掛けているワークショップユニットです。 今回のワークショップは、BOB ho-hoさんがデザイン・プリントしたポストカードに、絵を描いたり色を塗ったりして自分の作品に仕上げたポストカードを水戸芸術館に郵送し、届いた作品と組み合わせて展示になるというものです。

<ワークショップに参加してみて>
オンラインショップより届いたキットには、印刷とシルクスクリーンの混在技法で図形が刷られたポストカードが5枚入っています。5枚とも異なるパターンの図形です。実際には8種類の図形のポストカードがあるそうですが、その中からランダムで5種類の図形のポストカードがキットに入れられています。ポストカード5枚の他に、水戸芸術館へ郵送するための63円切手1枚と宛名ラベル1枚、ワークショップの進め方やBOB ho-hoさん、水戸芸術館からのメッセージが記されたチラシも同封されています。 ちなみに、切手はBOB ho-hoさんのオリジナルデザインで、全10種類あります。ポストカードに自由に色を塗るなり線を引くなりコラージュ(貼り付け)するなりして、ポストカードを自分の作品に仕立てます。刷られている図形をきっかけにアイデアがどんどん沸き上がり、1人で描いていても本当に楽しいです。空白のポストカードに何を描くか悩むよりも断然描きやすいのです。 描いた作品のポストカードに同封された切手と宛名ラベルを貼り付けてポストに投函します。2枚以上何枚でも郵送することは可能です。(この場合は切手も宛名書きも自己負担になります。)

<水戸芸術館に届いたポストカードは>
かくして水戸芸術館に集まってきたさまざまなポストカードは、水戸芸術館のエントランスホールの壁に、BOB ho-hoさんからの指示で以下のルールに従って貼り付けられます。  ①まず中央のBOB ho-hoさん作のポストカード2枚を起点にする。  ②基本は初めから刷られた模様をつなげていく。  ③届いた作品は全て展示する。 企画を立ち上げた当初から、コロナ禍を考慮してBOB ho-hoさんが展示に立ち会うことは予定していませんでした。展示当日は、水戸芸術館のスタッフとリモートで確認しつつ、スタッフたちが現場判断でつなげていったそうです。

<現地で見て>
水戸芸術館のエントランスホールの10メートルはある壁にびっしりと貼られているさまには圧巻でした。水戸芸術館に届けられたのは700枚、BOB ho-hoさんが昨年、浜松で実施されたワークショップの500枚、あわせて1200枚も貼られているそうです。ポストカードに刷られた図形や模様がつながるように縦横に貼られたポストカードを目で追っても、終点のない線路のようにどこまでも続いていきます。 そして1枚1枚見ていますと、抽象的な模様のみならず顔や動物を描きこんだものもあれば、謹賀新年と年賀状代わりに書き込まれたものもあったり、クレヨンで描かれたり色紙を貼られたりと様々な技法が用いられ、明らかに高齢者や保育園で描かれたとわかるものもあったりして、実に多種多様性にあふれています。それにもかかわらず統一感がとれていて、BOB ho-hoさんのメッセージ「みんなでつくるあたらしいイメージがその時また生まれ変わるようにあらわれてくるはず」という通り、自分の個性を超えた新しいイメージの1つの壁画のようにも見えてきます。やはり「繋がり」が見えているからでしょうか。 それはまるで世界中で様々な人たちが互いに手をつなぎあっている図のようでもあり、手作り感やにぎやかさに満ちた壁画になりきっているのを見るにつけて、幸福感を覚えずにはいられません。その中に自分もいることを思えば、ひとりぼっちではないという安心感でほっとしたりします。
(茨城県独自の緊急事態宣言が発出される前のある日に来館した時の感想です。展示風景はリンク先で見ることもできます。
https://www.arttowermito.or.jp/topics/article_40462.html

<企画担当の佐藤学芸員のお話>
「おうち・こらぼ・らぼ」を企画されている水戸芸術館現代美術センターの佐藤学芸員のお話によりますと、コロナ禍で来館できない人ばかりでなく、一緒に活動したくてもなかなか活動できる機会がなかった団体(幼保育園、特別支援学校、障害者施設、高齢者施設など)や、遠くにお住まいの方からもご参加いただき、全てが作品でつながることができたことで、コロナ禍の中のワークショップの意義を感じられた、とのことです。 ポストカードの裏にコメントを書いたものや知っている人の名前を見つけたりして、郵便の良さを実感したそうです。

<今回のワークショップの応募の延長>
今回のBOB ho-hoさんの「郵便式/POST CARD」は1月11日で締切り、1月24日まで展示の予定でしたが、茨城県独自の緊急事態宣言により水戸芸術館は1月18日から2月7日までに臨時休館に入りました。 それに伴い、臨時休館中でも当のワークショップに引き続き、参加することが可能になりました。 2月7日(日)到着までに作品を郵送すれば、2月21日(日)まで展示されます。 休館中でもワークショップキットはオンラインショップにて送料込みで1000円で購入できます。
オンラインショップ: https://arttowermito.ec.e-get.jp/
聞こえない人でも是非参加してみてください。ただし郵送した作品は返却されない代わりに、BOB ho-hoさんとともに旅を続けて他の場所で新しいつながりに一役を担っていただくそうです。

<最後に>
各地の美術館が企画する「おうちでできる創作ワークショップ」のほとんどが「おうち」での創作のため、一過性で終わってしまうパターンです。 水戸芸術館の「郵便式/POST CARD」のように作品を送り返す「Uターン型」の創作ワークショップはまだまだ少数ですが、美術館、参加者ともに多少手間はかかるものの、お互いに物理的なつながりが感じられ、リモートやオンラインでやるよりも美術館のワークショップに参加している感があります。 「Uターン型」の「おうちでできる創作ワークショップ」が今後増えていくことを願っています。

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