近年、欧米やアジア各地でアートや文化活動を介した健康や福祉への取組みが進み、関心が高まっています。国立アートリサーチセンター(NCAR)は、健康やウェルビーイングに良い影響をもたらすアートや文化の活動を推進すべく、東京藝術大学、ブリティッシュ・カウンシルと共に「Art, Health & Wellbeing ミュージアムで幸せ(ウェルビーイング)になる。英国編」を開催します。
今回のフォーラムでは、この分野で先進的な取組みを続けてきた英国に焦点を当てます。英国ではミュージアムをはじめとする文化施設やアート系NPOによる、健康や福祉への取組みがこの20年で大きく広がってきました。ミュージアムには人々をつなぐコレクションが豊富にあり、それを元に人々のクオリティ・オブ・ライフを高めるさまざまな体験が生み出されています。ミュージアムの建築空間自体も重要な場として、そのコレクションを活かし、地域の福祉・医療分野と連携するなど事例は多様です。自治体の文化政策においてもこの分野の活動が推進されており、大学等ではアートと健康のつながりに関する研究が重ねられています。今回のフォーラムでは、そうした事例と背景にあるストーリーを知り、今後のこの分野の活動や未来像について共に考えます。
[主催者メッセージ]
国立アートリサーチセンター センター長 片岡真実
数年にわたるパンデミックの間に、身体と心、そして社会の健康を考えるウェルビーイングへの注目が高まり、アートの力も問われました。オンラインでアートに触れる機会も増えた一方、ミュージアムでリアルに作品に出会う感動や興奮も実感されました。アートで “良く生きる”ってどんなこと?ミュージアムで一緒に考えてみましょう。
東京藝術大学学長 日比野克彦
「時間が伸びたり縮んだりする瞬間がある」ような体感とか、「色を覚えようとしてもやんわりと揺らいでしまう感覚」とか、「宇宙が出来る前には何があったのかを考えていてもどこにも辿りつけない浮遊感」とか、これらの生命誕生前夜から人間が持ち続けている絶対感覚が、人がイキイキと生きる力の源で、その場所へ私たちをアートは連れていってくれるような気がするのです。
[プログラム]
前半のインスピレーション・トークでは、4名の英国からのスピーカーにお話しいただきます。後半のダイアローグ・セッションとふりかえりでは、日英の具体的な取組みを聞きつつ参加者も共に語り合います。
※日英同時通訳、日本手話通訳、日本語文字通訳あり
〇開会・あいさつ
司会:一條彰子(国立アートリサーチセンター)
・国立アートリサーチセンター センター長 片岡真実
・東京藝術大学 学長 日比野克彦
・ブリティッシュ・カウンシル 駐日代表 マシュー・ノウルズ
〇共創フォーラムについて 稲庭彩和子(国立アートリサーチセンター)
〇インスピレーション・トーク1
・エスメ・ウォード(マンチェスター大学 マンチェスター博物館)
・ルス・エドソン(マンチェスター市立美術館)
-昼休憩-
〇インスピレーション・トーク2
・キャロル・ロジャーズ (ナショナル・ミュージアムズ・リバプール/ハウス・オブ・メモリーズ)
・マーク・ミラー (テート美術館)
〇ダイアローグ・セッション
ファシリテータ 伊藤達矢(東京藝術大学)、稲庭彩和子
・ジェーン・フィンドレー(ダリッジ・ピクチャー・ギャラリー)
・藤岡勇人(東京都美術館)
・グループでの対話
〇ふりかえり
[スピーカー]
稲庭 彩和子
国立アートリサーチセンター 主任研究員
ロンドン大学 (UCL) 修士課程修了。神奈川県立近代美術館、東京都美術館を経て、2022年より現職。美術館を拠点とした市民と協働する「とびらプロジェクト」や上野公園の9つの文化施設が連携するラーニング・デザイン・プロジェクト「Museum Start あいうえの」、超高齢社会に対応する「Creative Ageingずっとび」などを企画。現職では健康とウェルビーイングに関わる企画を推進する。著書として『コウペンちゃんとまなぶ世界の名画』(KADOKAWA、2021)、『こどもと大人のためのミュージアム思考』(左右社、2022)等。
エスメ・ウォード Esme Ward
マンチェスター大学 マンチェスター博物館 館長
130年超の歴史をもつマンチェスター博物館で初の女性の館長。英国で最もインクルーシブで想像力とケアの精神に富むミュージアムとなるための変革を主導する。これまでにダリッジ・ピクチャー・ギャラリー、ヴィクトリア&アルバート博物館に勤務し、マンチェスター博物館とウィットワース美術館のラーニング・エンゲージメント長を務める。エイジフレンドリーな文化やミュージアムの社会的目的と未来について執筆や講演を多数行っている。
※ビデオによる出演。
ルス・エドソン Ruth Edson
マンチェスター市立美術館 ラーニング・マネージャー(コミュニティ担当)
美術館や博物館、地方自治体に所属しながら、またはフリーランスの立場で、コミュニティ、アーティスト、慈善団体、研究者と連携して、展覧会やプログラムを共同制作するなどの豊富な経験をもつ。博物館や美術館の場を創造的な課題解決の主軸に据えて、社会に変化をもたらすことに情熱を注ぐ。例えば50歳以上の女性が直面する、仕事と高齢化にまつわるさまざまな差別や不平等の現状に取組む共同プロジェクト「Uncertain Futures」 を、過去3年間にわたってキュレーションしている。
キャロル・ロジャーズ Carol Rogers
ナショナル・ミュージアムズ・リバプール ハウス・オブ・メモリーズ ディレクター
ナショナル・ミュージアムズ・リバプールの代表的な認知症啓発プロジェクトであるハウス・オブ・メモリーズを率いる。数々の受賞歴をもつハウス・オブ・メモリーズは、認知症とともに生きる当事者、介護者、家族、コミュニティに変化をもたらしてきた。6万人以上の人々が恩恵を受けており、ハウス・オブ・メモリーズは英国全土および世界に広がり続けている。2015年1月、当プログラムにおける功績を称えられ、大英帝国勲章(MBE)を授与される。
マーク・ミラー Mark Miller
テート美術館 ラーニング・ディレクター
テートの全館(モダン、ブリテン、セント・アイヴス、リバプール)のラーニング・ディレクター。テートでは16年間、テート・ブリテンとテート・モダンの若者プログラムの責任者、プログラム・プラクティス長を務めた。分野横断的でクリエイティブな学習活動を生み出す力として歴史的な作品や、近現代のアートを扱い、学校外の学びの分野で25年以上の経験を持つ。テート以前はマンチェスターやロンドンのコミュニティの組織で働き、美術や音楽を用いて若者の復学支援や、文化関係のリソースやキャリアにアクセスするための支援を行ってきた。
伊藤達矢
東京藝術大学 社会連携センター 特任教授
東京藝術大学大学院芸術学美術教育後期博士課程修了(博士号取得)。現在、東京藝術大学が中核となる「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」プロジェクトリーダー。東京都美術館×東京藝術大学のアートコミュニティー形成事業「とびらプロジェクト」など、多様な文化プログラムの企画立案に携わる。共著に『美術館と大学と市民がつくる ソーシャルデザインプロジェクト』(青幻舎、2018)、『ケアとアートの教室』(左右舎、2022)等。
ジェーン・フィンドレー Jane Findlay
ダリッジ・ピクチャー・ギャラリー プログラム・エンゲージメント長
展覧会やラーニング事業の責任者。専門は新たな利用者の創出や関係性づくり。2021年にキュレーションを手がけた「ヘレン・フランケンサーラー:ラディカル・ビューティー」が批評家から高く評価される。16年間にわたり英国の美術館やギャラリーで教育事業や人々と美術館のつながりを広げ深める事業に取組む。これまでに大英博物館、国立海洋博物館、ケンウッド・ハウス、ロンドン交通博物館での勤務経験がある。
藤岡勇人
東京都美術館 学芸員
ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ修士課程修了。文化理論とキュレーションを専攻。2018年から東京藝術大学大学院美術研究科グローバルアートプラクティス専攻の特任助教を務め、研究者、キュレーター、映像作家として幅広く文化事業に従事。主な展覧会企画に「On the Verge of Fiction」(關渡美術館(台北)、2019年)など。2021年から東京都美術館のアート・コミュニケーション事業にて超高齢社会に対応した「Creative Ageing ずっとび」を担当。ミュージアムでの社会的処方の調査や、認知症の方とその家族を対象にしたプログラムの企画などを行っている。