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【手話マップ・レポート vol.10】 ミュージアムシリーズー2 東京都庭園美術館(その3)

レポート詳細 投稿日:2020年07月12日

前回は、八巻さんの報告「ミュージアムにおける手話を用いた教育プログラムの実践報告 ─アクセシビリティと異文化からの学び─ 」の前半部をレビューしました。
この中で八巻さんはアメリカとイギリスの事例を紹介しています。

今日は続きとなる後半部をレビューします。

「5.もしもガレがガラス職人に手話で指示したとしたら」
そうして八巻さんは「美術と手話プロジェクト」とともに2016年1月23日に東京都庭園美術館でワークショップ「もしもガレがガラス職人に手話で指示したとしたら」 を企画します。
概要はこちらに掲載されています。
https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/160123_galle_handsign.html

八巻さんは打ち合わせの段階で手話という言語 の表現力や可塑性に強く興味を持ち、ろう者と聴者が一緒に 新しい手話表現を作るワークショップを提案したといいます。
これは、エミール・ガレ(1846-1904)の作品を紹介する展覧会「ガレの庭」に関連したワークショップで、ガレのガラス工芸技法の手話表現を作るとともに、その技法のポイントを理解することで、ガレの意図を理解することが目指されています。
この背景として、美術用語に出会った時には指文字で表現することがあるのですが、指文字でその用語の意味を理解することは容易ではありません。そこで、用語の意味を理解し、必要な要素を理解しながら手話表現をつくろうとされています。これについて、募集をかけたところ、定員15名にたいして多くの募集があり、最終的には聴覚障害者12名に聴者19名の31名が集まったといいます。そこで2グループに分けてワークショップを行いました。
以下の手順で進められています。
ワークショップ風景はこちらに掲載されていますのでご覧ください。
http://helponhelp.jp/%E7%BE%8E%E8%A1%93%E3%81%A8%E6%89%8B%E8%A9%B1%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88/

1.ガレがもし手話で職員たちに手話で指示をしたら?という想定の話もしつつ、まず展覧会にあるガレの作品を4-5点、1時間かけて見て回る。
2.参加者の発見・感想を聞きながら、ガラス技法の効果について言語化する。
3.別室で技法の説明を行い、4点のガラス技法について手話表現を作る。
たとえば、「マルケットリー」という語はフランス語で「寄木細工」を意味し、ガラス技法としては「ガラスであらかじめ作っておいたパーツをはめこんで模様を作ること」である。このような用語について参加者で対話を行い、手話表現の検討を行う。
4.グループごとに発表をする。

アンケートによれば、参加者からの評価は高く、聴者は「手話の面白さに触れ、 コミュニケーションをとれたこと」を評価しているといいます。また、聴覚障害者は「展覧会に興味がないが手話通訳がついているため参加したという人も含めて、展覧会 の内容を理解できたことを評価している」といいます。

「6. 手話を用いたプログラムの意義 」
ミュージアムにおいて手話通訳を配置したり、手話を用いたプログラムを行うことはバリアフリー対応だけではないと八巻さんはいいます。それは「教育的・社会的意義のあるアクションであることを認識する必要があるからだ」と主張します。
そこで、手話を用いたプログラムをミュージアムが行う意義としてあげるのは、以下の3点です。

A「バリアフリーとしての情報保障」
一般的な見方としてろう者に対する手話通訳、文字通訳などの情報保障の模索することの必要性です。

B「ろう者のエンパワメント」
これまで美術において用語が少ないことは、美術について学んで発信する機会がなかったということだと八巻さんは指摘しています。つまり、ろう者が発信者となるプログラムを作ることは、美術についてろう者が語る方法をサポートすることであってろう者のエンパワーメントになるとしています。
(エンパワーメントとは、課題発見から解決までの能動的なアクションによって個人が力をつけていくということを意味します)

C「異文化からの学び」
ろう者からその視点や方法論を学ぶことで、これまでとは異なった発見をすることができるとしています。
ただし、これは聴者にとっての異文化でしかないことにも留意する必要があり、文化的な搾取にならないよう、ろう者にとっての「異文化からの学び」とは何であるのかを当事者と考える必要があることを指摘しています。

以上が八巻さんの報告のレビューです。
手話のあるプログラムを実施している美術館は増えてきていますが、その結果を報告しているものはまだまだ少なく、八巻さんの報告は美術館の内部から報告されているという点で重要なものです。同時に手話のあるプログラムの可能性を今後、開発していく必要があるでしょう。

そこで、手話マップでは手話に関するプログラムの構想を持っている学芸員に必要な方法・技術のサポートができるように体制を整えています。ぜひご相談ください!

※画像はWikipediaより引用しました。

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