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【手話マップ・レポート vol.24】「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」に聞こえない人でも参加できます。

東京都渋谷公園通りギャラリー/ 東京都

レポート詳細 投稿日:2021年07月23日

コロナ禍と猛暑の最中、いよいよ東京オリンピックパラリンピックが始まり、ますます落ち着けられないこの頃です。
今回は、「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」についてお話します。
その団体名称から視覚障害者向けの団体と思うかもしれませんが、実は聞こえない人でも参加できます。

1—「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」とは
「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」は、目の見える人、見えない人が言葉を介して「みること」を考える鑑賞プログラムを企画運営する非営利団体で、今年で10年目になります。
「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」の目的は以下の2つです。
1、視覚障害者をはじめとするあらゆるニーズを持つ人にとって芸術、文化へのアクセシビリティを高める。
2、異なる見方を持つ人同士が様々な経験を語り合うことで「みる」とはどんな経験なのかを考える。
この目的を遂行すべく、視覚障害者と晴眼者から成るスタッフ体制(晴眼者3名、視覚障害者4名)で行う活動は、コロナ禍以前は主に各地の美術館の展示室で絵画や彫刻を前に「対話型鑑賞」を実施するのがメインでした。コロナ禍がまだ終息していない現在は、オンラインで絵画のみならず映像作品をもとりあげ、カメラ越しに世界中の人とともに「対話型鑑賞」に挑んでいます。

2—ワークショップの内容
「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」が企画運営するワークショップは「対話型鑑賞」がメインであることは先に述べましたが、通常と異なるのはまず見えない人が鑑賞の場にいるということ。従って参加者たちには「見えること」「見えないこと」を意識して頂いて対話を進めていきます。「見えること」は鑑賞対象の作品の大きさ、形、色表現されたものなどを、「見えないこと」は発言者の思い出、体験、見解などを指します。ですから対話も「見えること」から「見えないこと」へと流れていき、それを追うように見えない人からの質問や感想がさらに対話を盛り上げていくパターンになります。
ただ、「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」としてはそういうワークショップの流れを固定せず、常に試行錯誤のスタンスで挑み続けていて対話のポイントも「見えること」「見えないこと」に「わからないこと」も加わったりします。「わからないこと」で沈黙になっていてもそれもコミュニケーションの1つ、という見解に基づくものです。

3—聞こえない人の参加にあたって
「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」は、先述した目的の2に沿って早い段階から聞こえない人の参加を受け入れていました。
聞こえない参加者への情報保障として、最初は要約筆記、参加者全員の筆談など色々と試行錯誤の末、現在は手話通訳がメインになっています。その他、参加者全員に発言の際には挙手するルールを設け、聞こえない人には誰が発言しているかわかるようにしています。
また「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」では聞こえない人の参加が可能なワークショップには必ず手話通訳を用意しています。
例えば東京都写真美術館で開催される年間ワークショップや、シアターフォーオール(オンライン配信シアター)での年間ワークショップ「ミるミる見るツアー」には全ての回で手話通訳が用意されています。

4—聞こえない筆者が参加してみて
筆者は「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」のワークショップにたびたび参加させて頂いています。
「見えること」から対話が始まることは、聞こえない人にとってはスムーズに対話に入りやすく、発言もしやすいのです。
さらに、その「見えること」が聞こえる人たちでも各々の見え方があることがわかると「自分の見えること」を意識するようになりますし、他の人の見え方に立って作品を改めて見ると作品の印象も大きく変わってくることもまた面白いです。

ところで視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップでは手話通訳者はその場に溶け込んだ通訳を心がけています。ワークショップでは目の見える人、見えない人、耳の聞こえる人、聞こえない人、など異なるコンテクスト(文脈)を持つ人たちが会話を交わします。同じ日本語を使っているつもりでもしばしば意味がずれて使われコミュニケーションがうまくいかないこともあります。そんなズレに気がついたときには手話通訳者はいったん会話を止めて発言者に意味を確認します。手話通訳者自身も疑問や質問を通して会話に参加するのです。このワークショップでは参加者がスムーズに会話することだけでなく、異なるコンテクストを持つ人同士が疑問そのものについて考え、話すことこそが目的だからです。それもアート鑑賞の現場ならではのアクセシビリティの1つとも思っています。

聞こえない人でも「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」のワークショップにぜひ参加してみてください。各々で新しい鑑賞体験、対話体験ができると期待しています。

7月23日現在、確定している「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」の手話通訳付きワークショップの予定は以下の2つです。

① Theater for All オンライン映像鑑賞ワークショップ「ミるミる見るツアー」(手話通訳あり)
【鑑賞する作品】映像作品「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」〜本祭I:家電雷鳴篇〜」(15分)
2021年8月5日(木) 19時〜21時30分
詳細、申込みはリンク先を参照下さい。https://www.facebook.com/354399841321507/posts/4336859203075531/

② 渋谷公園通りギャラリー「アンフレームド  創造は無限を羽ばたいてゆく」(手話通訳あり)
オンライン(Zoomミーティング)開催
2021年8月16日(月) 18時30分~20時30分
詳細、申込みはリンク先を参照下さい。https://inclusion-art.jp/archive/event/2021/20210816-102.html

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