こんにちは、手話マップです。梅雨も明けそうなところ、いかがお過ごしでしょうか。熊本県南部で豪雨があり、被害が出ております。被害にあわれた皆様にお見舞い申し上げます。
さて今日は、前回に引き続き、東京都庭園美術館についてレポートします。庭園美術館の紹介およびお取り組みの全体については前回ご紹介いたしましたが、今回はその中でも八巻香澄(やまき・かすみ)さんによる報告をレビューしながら、さらにお取り組みについて理解を深めていきたいと考えております。
八巻さんは2016年当時、庭園美術館にお勤めでした。そこで「もしもガレがガラス職人に手話で指示したとしたら」というユニークなワークショップをされております。
https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/160123_galle_handsign.html
このワークショップについて報告をまとめています。報告のタイトルは「ミュージアムにおける手話を用いた教育プログラムの実践報告 ─アクセシビリティと異文化からの学び─ 」(掲載誌:日本ミュージアム・マネージメント学会研究紀要 = Bulletin of Japan Museum Management Academy (23), pp.11-17, 2019年3月)です。
https://ci.nii.ac.jp/naid/40021973551
この「ミュージアムにおける手話を用いた教育プログラムの実践報告」(以下、報告と表現します)について、2回に分けてレビューしていきたいと思います。
さて、この報告の構成は以下のようになっています。
「1.はじめに」
「2. 手話とろう者 」
「3. アメリカとイギリスのミュージアムにおける手話プログラム 」
「4. 日本のミュージアムにおける手話プログラム 」
「5.もしもガレがガラス職人に手話で指示したとしたら」
「6. 手話を用いたプログラムの意義 」
「7. まとめ 」
それぞれの構成から要約していきましょう。
「1.はじめに」
「2. 手話とろう者」
この報告の目的は、八巻さんが当時、勤務していた東京都庭園美術館でおこなった手話を用いたワークショップを報告し、手話を用いた教育プログラムをミュージアムで行うことの意義について考察したいとするものです。
また、ここで手話とろう者について解説を行っています。八巻さんは1995 年の「ろう文化宣言」 に注目し、「ろう者」とは「医学的病理的な観点ではなく、社会的文化的視点をもった用語といえる」としています。この「ろう文化宣言」は『現代思想』1995年3月号に掲載されたもので、刊行当時、聴覚障害教育をはじめとする各分野に大きな影響がありました。
「3. アメリカとイギリスのミュージアムにおける手話プログラム 」
ここでは、アメリカとイギリスに即して、手話やろう文化とミュージアムについて過去の例を紹介しています。たとえば以下のようにまとめられます。
・アメリカ
1910年代 ニューヨーク市のメトロポリタン美術館では視覚障害児を対象としたプログラムがあった
1926年 メトロポリタン美術館で読唇を用いた講義があった
1950-60 年代 公民権運動により、西洋芸術至上主 義、マジョリティ主義、エリート主義への批判があった
1968年 建築障壁法、1973年 リハビリテーション法によるハード面へのアクセシビリティの保障
1990 年 障害者のための総合的な公民権法として「障害のあるアメリカ人法(ADA; Americans with Disabilities Act)」 が成立
そうして八巻さんは2000年前後からミュージアムにおいてアメリカ手話によるギャラリーツアーが行われるようになったといいます。その例として、メトロポリタン美術館は「Met Signs」をはじめ、ろう者の当事者によるツアーがミュージアムで行われるようになったと指摘しています。
「Met Signs」について、手話マップの中の人はハイライトツアー(代表的な作品について解説を行う形式のツアー)に参加したことがあります。
https://www.metmuseum.org/events/programs/met-tours/met-tours-disabilities/met-signs
参考映像:https://www.facebook.com/metmuseum/videos/10155229757667635/
・イギリス
1995年 「障害差別禁止法(Disability Discrimination Act)」
2000年 「平等法(Equality Act)」
2005年 大英博物館が 「障害者平等 スキーム(Disability Equality Scheme)」 を発表
そうして八巻さんはイギリス手話によるツアーがはじまったのではないかとみています。イギリスではロンドンのテート美術館でろう者のエデュケーターをトレーニングするプログラムがありました(補足:現在は終了しています)。
これらのここでのポイントとして、法改正がミュージアムの運営に影響を与えている、ということが挙げられます。日本でも2016 年に障害者差別解消法が施行されたことによる、ろう者への対応を考えるミュージアムが増えてきたように考えています。
「4. 日本のミュージアムにおける手話プログラム」
前でアメリカ・イギリスの例について紹介されましたが、日本についてはいかがでしょうか。
人文系のミュージアムでの例として以下をあげています。
定期的に手話通訳付きのギャラリートークを行っているケース:森美術館、東京都写真美術館、川越市立美術館
手話通訳付きの講演会:世田谷美術館、高知県立美術館
障害を持つ人のための特別鑑賞会:東京都美術館、熊本県立美術館
希望があれば対応する:横須賀美術館、名古屋市博物館
ときおり手話通訳をつけたプログラムを実施:東京都現代美術館、長野県信濃美術館
手話のできるボランティアによるガイド:東京国立博物館(補足:現在は終了しています)、九州国立博物館、三重県立博物館
そうした先例がある中で八巻さんは、ミュージアムの外でも行われている活動としてNPO法人エイブル・アート・ ジャパンの中の一つのプロジェクトである「美術と手話プロジェクト」 に着目し、協働を行います。
(つづく)
※東京都庭園美術館の画像はWikipediaより引用しました。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Tokyo_Metropolitan_Teien_Art_Museum.jpg