【概 要】
2020年のパンデミック以降、私たちは「共にあること」の意味を自問してきたのではないでしょうか。更に戦争や対立が深まっている日々、美術館においても例外ではなく、異なる立場の人々が同じ空間を共有しながら作品と出会い、遠い世界や他者を想像し、内省的な時間を持つことの意義を再認識しつつあります。
今回の連続講座では、前回の連続講座「美術館を考える」に続き、さらに視野を広げて「アートをめぐる場の設計」をテーマとします。立場の違いを超えて共通の関心が形成されていく現在進行中の取り組みを紐解きながら、地域とアートの関わり、ツーリズム、市民が作る映像アーカイブ、環境美学などの観点から、「共にあること」とアートの関わりを考えます。
【第1回:12月10日(日)「地域と美術館の関わりを考える」】
地域と美術館の関係は大きく2つに分けられる。一つは、美術館と地域の人たちとの文化を通じた直接的な関わり。もう一つは、地域外の人たちが美術館を訪れることで生まれる地域への経済的な影響。後者に関しては、金沢21世紀美術館が構想された2000年頃から、まちづくりや商店街の再活性化などに対して美術館が果たす役割が、さらに十和田市現代美術館が開館した2010年頃からは海外を含む観光客を地域に惹きつけるための拠点としての役割が注目されるようになった。変化する状況を背景に美術館はどのように地域と関係すべきか。金沢21世紀美術館や十和田市現代美術館を例に、現場で見えてきた課題を共有し、論点を整理する。(鷲田めるろ)
十和田市現代美術館館長/東京藝術大学准教授
1973年京都市生まれ、十和田市在住。東京大学大学院修士(文学)修了。金沢21世紀美術館キュレーター(1999年から2018年)を経て現職。第57回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館キュレーター(2017年)。あいちトリエンナーレ2019キュレーター。著書に『キュレーターズノート二〇〇七ー二〇二〇』(美学出版)。主な論文に「鶴来現代美術祭における地域と伝統」『金沢21世紀美術館研究紀要アール』6号。