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【手話マップ・レポート vol.21】せんだいメディアテークの「バリアフリー上映 」の活動

せんだいメディアテーク/ 宮城県

レポート詳細 投稿日:2021年03月01日

三寒四温で春が近くなってきています。コロナ禍はまだまだ終わりが見えていませんが、皆様にはおかわりありませんか?

さて、映画のバリアフリーの実現のために日本語字幕を制作するNPOはありますが、公共施設で映画の字幕を制作しているところがあります。仙台市のせんだいメディアテーク内で「バリアフリー上映」を支えるボランティア団体です。
2003年に活動が始まり、毎年2〜3本程度の映画に 日本語字幕を制作し続け、すでに47本の実績があります。

ボランティアたちは、まずはボランティア養成講習会で国内の映像のバリアフリー化の現状についてのレクチャーを受け、字幕制作ソフトウェア「おこ助」(※)の操作を習得します。(※:特定非営利活動法人メディア・アクセス・サポートセンターが開発したソフト)それから4ヶ月くらいの間に、映画の音声の聞き取り、字幕制作に取り組み、モニターによる試写会を経て日本語字幕付き映画が完成します。字幕のみならず、視覚障害者向けに音声解説にも取り組んでいます。
コロナ禍による休止期間はあったものの、2020年11月には47本目となる『飯舘村に帰る』の上映に無事にこぎつけました。これまで『伊豆の踊り子』など商業映画や教材資料に字幕をつけていましたが、最新の『飯舘村に帰る』は初めてバリアフリー化に取り組んだ震災記録のドキュメンタリー映像です。

『飯舘村に帰る』は、せんだいメディアテークが運営する「3がつ11にちをわすれないためにセンター」に寄せられた映像で、東日本大震災による原発事故で避難していた福島県飯舘村(いいたてむら)の住民たちの中で、避難指示解除によって飯舘村に帰ることを決めた人たちへのインタビューを撮った内容です。多くが高齢者であり、避難生活の不便さやかつての村のようすや帰村後の暮らし、村への想いなどが、さまざまな口調で語られています。

この映像につけられた字幕ですが、通常の映画字幕にはない工夫がいくつか見られました。

1-擬音語によるナレーション字幕
冒頭の山の風景のシーンに「ゴー・・・(風)」と字幕が出ます。確かに山の樹々の葉が揺れていなければ風は見えないものです。ですが、通常の映画の「風の音」よりも「ゴー・・・(風)」だけで風の強弱、冷たさ、横から吹いてくる、などと色々とイメージできますし、そういう風のイメージが飯舘村の印象を具体化してくれます。

他にも通常の映画だったら「(自動車が走る音)」とだけあまりに無機質的な音の描写が、ここでは「ブー。。(車の音)」「ガー===(車の音)」などと表示され、その擬音的な描写の字幕でどういう車か?スピードは?が想像できます。

2-話者を特定する字幕
『飯舘村に帰る』ではインタビューがずっと続きますので、村の人と、画面に映っていない聞き手(インタビュアー)の発言を区別できるように、聞き手の発言だけ字幕の色を変えていました。

また、1人の話者が沈黙したり他者の話を聴くシーンで、画面に映っていない聞き手が質問したり第三者が割り込んで話をしたりする場合など誰の発言かわかりづらいときは、発言の冒頭に話者の名前を表示していました。
それによって、視覚的に1人のお話を聴く感覚よりも、その空間にいる複数の人たちの話に囲まれているという感覚になり、臨場感も違ってきます。

3-方言、言い間違いもそのまま字幕
すでにセリフやシナリオが用意されている商業映画と違い、シナリオもなく突発的なハプニングもあったりするドキュメンタリーのゆえに、ボランティアたちはその字幕制作に大変苦労されたそうです。
今回の『飯舘村に帰る』では、話者たちの方言、言い間違い、言いよどみもできる限り 文字化しています。ただ方言でもその意味を説明することはほとんどありませんでした。聞こえる人でしたら聞き流してしまうところも、字幕をつけるべきかボランティアたちは悩まれたそうです。とはいえ、話者のお人柄、人生の深さがにじみ出るトークや口調をそのまま字幕に変えることで、自分がその話者の間近に居合わせているような感覚になり、そして高齢者たちの昔話を語るような口調に懐かしさを覚えたりしたものでした。

「バリアフリー上映」の活動には、試写会のモニターに聞こえない人たちも参加されて彼らの意見や感想も反映されています。この活動がボランティアたちに、聞こえない人にどう伝えるか、どう伝わるか、を真摯に考えさせることによって、社会的コミュニケーションの一層のバリアフリーの向上につながっていくと信じています。『飯舘村に帰る』制作者の「この字幕や音声解説付きの映画をみんなで見ること自体もバリアフリー」というお話も印象的です。
また、アートの世界にドキュメンタリー映像の存在感が増しつつある現在、せんだいメディアテークの「バリアフリー上映」の活動や工夫が意義あるものに変わっていく可能性も大いにあると考えています。
「バリアフリー上映」のさらなるご健闘を祈るばかりです。
なお、日本語字幕と音声解説がついた『飯舘村に帰る』のDVDは、2021年春頃にせんだいメディアテークの映像・音響ライブラリーで貸出する予定です。ライブラリーの利用は、仙台市や仙台都市圏13市町村にお住まいの方、仙台市に通学、通勤の方に限りますが、県外の方でもせんだいメディアテークに申請すれば借りることができます。
https://www.smt.jp/info/help/contentuseright.html

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